2017年12月1日金曜日

ハードエロス きりもみ(八話)

八話 奴隷の人格

  智江利の悲鳴がより惨いものへと変化したとき、奈良原は美希と洋子の対比を思う。田崎の責めに耐えきって花唇に褒美をもらう幸せな奴隷の姿に、洋子は焦れ、かすなか敗北を悟って苛立ったのだろう。美希と洋子の不仲は洋子の側から仕掛けたものに違いない。学生だったはるか過去、その頃から洋子は美希に対して自分と同じ匂いを嗅ぎ、だから怖く、怖いから優位に立とうとした。
  美希もそうだ。同じ牝の匂いの漂う洋子に刺激され、遠ざけようとしてきた。そのへんが底辺にあっての、いまこの現実。たまり場となる古本屋は美希に近く、俺を中心に智江利がいて田崎がいる。洋子は実家に暮らして書房に遠い。まず、その距離感。



  次に、それよりさらに決定的なのは、互いに独身でも洋子は母親。実家に暮らして家族の目もある。しかるに美希は単身。思うがままにマゾとなれるし男に貫かれていても誰に臆するところがない。洋子にすれば私だってシテ欲しい。先に田崎をもらった美希を見ていて口惜しいと考えてしまう・・智江利は俺の専属奴隷、田崎一人に女が二人と、そう考えてしまうのだろうか。徹底して二人を競わせ、そのつど美希が上だと洋子は壊れる。これは面白いと奈良原は考えた。
  四つん這いで尻を開き、洋子の鞭に性器を打たれる智江利。奈良原は言いつけた。
 「待て洋子」
  鞭が止まる。
 「智江利、指でクリトリスを剥いてやれ。洋子はもっと強く、剥かれたクリを打ってやる」
 「はい、ご主人様」 と、智江利よりも洋子の声がはっきり聞こえる。
  ご主人様か・・いつから俺はおまえの主なんだと感じた奈良原。やはりそうだ、洋子はこの俺が頂上にいる主だと思っている。美希が田崎なら私はもっと上のご主人様の奴隷。その主張を美希に聞かせてやりたくて大きな声で返事をした。



 「辛いよ智江利、いくわよ」
 「はい!」
  ベシッ!
  板床に片手をついて這い、片手の指でクリトリスを剥き上げる智江利。革の束の裁ち落とされた鋭利な革先がピンクの性核にまともにヒット。開かれた尻が力の限り締められて、膝をついた両足の先で床を蹴り、床について支える左手で床を叩く。しかし悲鳴はしなかった。きゃあきゃあ騒いで逃がせるレベルの痛みではない。
  奈良原は言う。
 「もう一度」
 「はい、ご主人様」
  肘で振り上げて炸裂のときにリストを使ったフルスイング。
  ベシィーッ!
 「ぎゃぅ!」
  這ったままのたうつ智江利の肢体が跳ねる。尻を振り立て、足も手もジタバタさせて、なのにまた尻を上げてクリトリスを剥き上げる。完成された奴隷の心を見せつけられた洋子だった。

 
 「あぅっあぅっ、いいです田崎様ぁ、イッてしまうぅ!」
 「もっと欲しいか」
 「はい、もっと、もっと突いてぇーっ、ああイクぅーっ!」
  それもまた可愛い奴隷が発する甘声。智江利と美希、二人の奴隷の可愛い姿に打ちのめされる洋子。
  奈良原は言った。
 「洋子、もういい、ここへおいで」
 「はい、ご主人様」
  鞭が終わったと洋子はほっと肩を落とす。智江利がすごすぎて見ていられない。私だって濡れてクチュクチュ。私だって打たれたい。私はいったい何者なの? 洋子は混乱していた。



  鞭打ちがすむと、智江利は涙を拭おうともせず、奈良原に向かって膝で立って両手を頭の奴隷のポーズ。それもまた洋子には眩しかった。スリムな智江利。Bサイズの乳房でも充分ふくらみ、裸身とのバランスがとれている。奈良原はまず智江利を見て言いつける。
 「痛かったクリトリスをよくこすって濡らしてろ」
 「はい、ご主人様」
 「クリトリスだけだぞ、指を入れるな、床に汁が垂れるまでだ」
 「はい、ご主人様」
  頭の後ろに組んだ両手のうちの右手だけを降ろした智江利。下腹の黒い飾り毛の谷底へ指を這わせ、谷を開くようにしながら指先だけを動かす智江利。下唇をちょっと噛み、主だけを見つめ、小鼻をひくひく扇情的に震わせながらオナニーする奴隷。少しの愛撫でよほどいいらしく、ふっ、ンふっ、と甘い息が鼻から抜ける。



  そんな智江利からは囲炉裏の向こう。奈良原のそばに座布団をはずして板床にじかに正座をする洋子。奈良原は、膝に置かれた白い手に男の手を添えた。
 「よくやったが、いまのままではダメだぞ、最下級の奴隷に堕ちることになる」
  と、言葉で示し、しかし声は穏やかで、奈良原は両手を開いて洋子をそっと抱いてやる。
  洋子は戸惑う。叱られた。でも、どうして? なのにどうして抱いてくれるの? わからない。美希が上? 私じゃダメなの?
  洋子は抱かれていながら沈んでいた。



  惨いほど深いご主人様。主と洋子のそんな姿を、クリトリスをこすりながら見守って、智江利は心が震えていた。一組しかない奴隷の誇りを持ち込んだ田崎にもそれを感じる。美希と洋子、それに私までをも巻き込んだピアスの争奪戦。ご主人様ならきっとそう考えるに違いない。
  鞭打ちにジンジン痺れるクリトリスが熱を持って勃っていて、敏感になっている分、こすってやると身震いするほど感じてしまう。私のマゾが燃えている。智江利は奈良原という主に心酔していた。



  射精? いいや、フィニッシュ手前で抜かれた田崎。柱にくくられた縄を許された美希が、田崎の若い下腹にむしゃぶりついて睾丸を揉み上げながら勃起を喉へと送り込む。
  こみ上げる吐き気をこらえて田崎を受け止めようとする女心。美希ははじけた。一か所崩れたガードフェンスがなだれをうって崩壊し、マゾ牝美希へと変貌した。
  まっ白な尻にも腿にも、ステンピンチに泣いた乳房にも激しい鞭痕。それでいて田崎を求め、髪の毛を振り乱してペニスを貪り、ときどき見上げては微笑んでいる。
  真性マゾ。洋子よりも強い想いが噴出している。子供を持てないままに破局した結婚。洋子は幸せ。私は違う。そうした想いをぶつけるように奴隷となる。洋子では勝てない。この二人はおもしろいと智江利は思った。



 「ときどきこういうものが見たくなる。ヘンかしら?」
  チラと眸を上げ、何も言わずに微笑んでくれたマスター。あのときはSM雑誌だったわね。智江利は奈良原との出会いを考えていた。
 「後戻りできてしまう人生でいいのかなって思うのよ」
 「ふむ、それもまた妙な言葉だ」
 「どうして? どうして妙なの?」
  あのときの私は誘っていた。面倒な私に嫌気がさして、跡形もなく壊して欲しかった。この人はどこかが違う。もしやS様? そんな気がした。
 「じゃあマスター、もしも私が・・」と言ったとき、手をかざして声を止めてくれた人。他人を試すフリをして自分を確認するだけの無益な言葉。
 「真木ちゃんが安くなる」
  奴隷の性を見定める決定的な一言だった。私を高いものとして認めながら責めてくれそう。音もなく崩れ去るガードフェンスを感じていたし、それこそがS様の言葉だと感じていた。
  眸と眸がぶつかりそらせなかった。
  ご主人様に叱られて眸を見つめられ、いまの洋子もそんな想いに違いないと智江利は思う。



  美希と田崎が静かになった。噴射する男の情欲を受け取って、もちろんそれは飲み込まれ、いっときの支配者となって立ちはだかる主の腰を抱いて美希は甘える。田崎らしいやさしい責め。ご主人様がチラとそんな二人をごらんになってる。クリトリスをこする指が速くなる。イキそう。智江利はとろんと溶け出したマゾの眸で、次の命令を想像していた。
 「さて」 と奈良原が言うと、田崎がちょっとうなずいた。
  田崎が呼ばれた今日の調教はこんなものではすまないだろう。智江利だけが理解していた。
  奈良原が智江利を見て言う。
 「田崎君に浴衣を」 と言いながら、傍らに座る洋子へとほくそ笑む眸を向ける。
 「面白いものを見せてやろう」 と笑うと、ふたたび智江利に眸を向ける。智江利はそのへんの呼吸を知っているから、クリトリスをこすった手を頭の後ろに戻して、膝で立って肩幅に脚を開く奴隷のポーズ。
 「垂らせなければ仕置きだぞ」
 「はい、ご主人様」
  智江利は奴隷のポーズを保ったまま腹に力を入れてイキむような顔をする。

 
 下腹が締められたことで腹圧が上がり、膣が締まる。クリトリスへのオナニーで腹に溜まった愛液が搾り出され、毛群らの奥底からつーっと糸を引いて床に垂れる。洋子は淫らな汁を搾り出す智江利の膝の間を見つめている。つーっと糸を引いた愛液は流れるように床に蜜溜まりをつくっていく。
  奈良原が言う。
 「うむ、よし、充分感じたな?」
 「はい、ご主人様、恥ずかしいです」
 「舐め取って、田崎君に浴衣を出してやりなさい」
 「はい、ご主人様」
  奴隷のポーズを許された智江利は、膝を揃えて正座をしながら唇を板床に寄せていき、蜜溜まりを吸い取って床を舐め、それから立って背を向けた。ほどなく戻り、綺麗にたたまれた浴衣を田崎に手渡すと、ふたたび奴隷のポーズで控える。
  奈良原は美希を呼び、智江利の横に同じポーズを強制した。
 「二人とも尻を向けて這え。胸をつけて尻を上げる。クリトリスだけをこすってやるんだ、中には入れるな」
  智江利は即座に返事をしたが美希は一瞬戸惑って、しかし智江利のするように同じポーズを真似て這う。乳房を板床につけ、肩幅に膝を開いて尻を張る。アナルまで一切を隠せないマゾ牝の姿。二人ともに醜悪な牝の根源を晒しきり、濡れで陰毛がまつわりつく性器を囲炉裏のこちらに見せつけて、指先でクリトリスだけを刺激する。



  囲炉裏のこちらに奈良原と田崎があぐらで座り、洋子は正座。囲炉裏の向こうの痴態を見せつけられて、洋子はひそかに生唾を飲んでいた。
  女の本性。おびただしい濡れ。さらに美希は田崎に貫かれていることで膣口が弛み、ぽっかり穴を見せている。
  見ているだけで息の乱れる洋子。私だけが着衣のまま。だからなおさら裏側までを見透かされるようで恥ずかしい。
 「さて洋子だ」
 「は、はい?」
  身の毛がよだつ。奈良原の声が女心に突き刺さり、またそのとき向けられた田崎の眸にも恐怖を覚える。キュンとした想いが括約筋を締めたらしく濡れが染み出す感覚が性器にあった。
 「脚を揃えて膝で立つ。下着を取って裏返し、田崎君にお見せしなさい」
  ああ嘘よ、そんな。脱げと言われて責められるほうがどれほどいいか。恥辱の悲鳴がうぐぐと喉の奥でくぐもった。血の気が引く感覚が洋子を襲う。



  正座から腰を浮かせば短すぎるミニスカートから白い腿が露わ。下から手を入れ、赤いデルタを見せつけてパンティの両サイドに手をかけて、尻ちょっと振るようにして下げていく。解放された性器に冷えを感じ、それはどれほど濡らしているかを物語るもの。
  スカートのラインを越えてパンティが下がったとき、すでに裏地が見えていて、その裏底が濡れを素通しにするほど蜜であふれる。
  洋子の面色が青い。羞恥と恐怖の入り交じった、これ以上はない恥辱。
 片膝ずつ少し上げて赤い布地を抜き取って、洋子はそれを両手に持って裏返し、ヌラヌラ濡れて匂うような底部のありさまを田崎に差し出し、体をふるふる震わせた。
 「ふふん、だろうな、いやらしい女だ」
 「はい、恥ずかしいです」
  田崎に言われ、語尾に向けて消えゆく声。引いていた血の気が一気に逆流して頬が燃えるような熱が襲う。
  奈良原が言葉で責める。
 「まったくだ、マゾの証のようなひどい濡れだ。よく舐めて綺麗にしろ」
  奈良原の命令は絶対だった。奴隷の身を受け入れて、尻の底までを見せつけてオナニーさせられる美希そして智江利。智江利はともかく美希にだけは屈したくない。最下級の奴隷なんて絶対イヤ! 美希にだけは君臨したい。



  洋子は、手の中で裏返された透き通る濡れをじっと見つめ、顔に寄せて舐めていく。私はいま私の欲情と向き合っているんだわ。私だけが着衣でいる口惜しさを思い知っているんだわ・・洋子の心は揺れていた。
  奴隷と言うなら私のほうが先だった。浣腸されて排泄までも晒してしまった。なのにどうして美希に追い越されてしまうのよ。絶対イヤ、私は負けない・・そんな洋子の想いは奈良原には見透かせる。美希より下で扱われると洋子は哀しい。そこから逃れようともがくだろうし、それがマゾへのモチベーションとなっていく。
 「ンふ、あぁぁ」 そのときかすかな喘ぎを漏らしたのは美希だった。男二人、それによりによって洋子に対して痴態を晒し、なのに感じて感じてたまらない。奴隷となるなら洋子よりも感じる女になってやる。可愛がられる奴隷でいたい。指の刺激にどうしようもなくなって、そうして自分に言い聞かせ、そしたらそのとたん、快楽がマグマのようにやってきた。
  智江利は智江利で甘い息を吐いて尻を振る。



  洋子の眸が据わってきていると奈良原はほくそ笑む。恥辱の快楽に際限なく濡らす二人の奴隷への羨望。そろそろいいかと奈良原は考えた。
 「それまでだ二人とも。二人で洋子を抱いてやれ」
  え? 抱いてやれ? レズってこと?
  洋子は意味が解せずに奈良原の横顔をうかがったが、向こうへ行けと眸で合図を送られて、立つしかなかった。